御供物=落雁製、
桜と橋の欄干=生砂糖製。


[挙式]
 挙式には、神前、仏前、教会など宗教による結婚式と人前結婚式(参列者に証人になってもらい、自分たちの結婚を誓い合う新様式の結婚式)とがある。いずれの場合にしても挙式の最中に、和洋を問わず菓子が介在することは無く、習慣上その中に持ち込むことは難しい。但し挙式前の控え室での接待には、こぶ茶、桜湯と共に菓子を出す所もあり、和菓子としては、鶴亀、松竹梅、寿、などの祝事用の意匠、字句を使用、作製することが多い。あらゆる冠婚葬祭の中でも婚礼は最も華やかに祝福される儀式であり、披露宴の引菓子とは異なり、新趣向のものはなかなか受けいれられにくいようである。
<笑顔饅頭>

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根引松=餡平製、
烏帽子と衣=生砂糖製。






風車=生砂糖製、
赤座布団ほか=生砂糖と餡平製。

[披露宴]
 新しい第2の人生に旅立つ新郎新婦が、自分達の結婚を、親類知人に報告して、夫々の交誼と指導を願う意味で開かれるのが披露宴である。昔は挙式の日に行うのではなく、日を改めて行い、かならず自家で行うのが正式とされていた。又婚礼衣装も武家時代は死装束の白無垢でゆくという厳しいものであったが、せめて華やかな色物にしたいという願いから、「お色直し」が生れたとされている。現在では大変便利なホテル、結婚式場ができ豪華なイベント効果を凝らした披露がふえてきたが、同時に新郎新婦と親しみ近づきを目的とするところから個性を生かした様々な方式で行われていることがある。例えば2回に分けて行なう(両親、親戚、上司、来賓で一度、友人同僚達だけで一度)方法などである。また限られた予算では、披露宴よりも新婚旅行に重点をおく人も近ごろでは多くなっている。昔から仕来りとして披露宴には必ず記念の引き出物が出され、引菓子として、松竹梅、鶴亀篷莢山などの意匠で、三ツ盛、五ツ盛、九ツ盛等の和菓子が多く利用され、注文によっては家紋なども入れた。最近では披露宴が洋式化されるにともない、カステラなどの利用も多くなり引菓子=和菓子の等式が成立たなくなっている。(しかし一部の披露宴では入刀用ウェディングケーキに和菓子を利用した所もあり、和菓子業界にとっては新しい形の引菓子を考えねばならない時期でもある。)掛紙は紅白の染め分けに鶴亀の浮き出し模様、寿を金文字であしらったものを用い、紅白の房紐か金銀の水引きを使う。
<引菓子 子持饅頭 工芸飾り菓子>

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扇面=生砂糖製、
翁=落雁製。






山・すすき=生砂糖製、
猿=落雁製。






海老=金花糖製、
熊手=生砂糖製。

[挨拶まわり]
 新婚の挨拶まわりとして、近所まわり、夫の親類まわり、先輩や上司への挨拶まわりなどがあり、近所まわりでは、これから長い間主婦としておつきあいするのだから充分に注意して悪い印象を与えない様にしなければならない。新婚旅行から帰ったら、両親と同居の場合は姑が嫁をともなって近所をまわる。町内を一回りする必要はないが、向こう三軒両隣ぐらいは挨拶にまわりたいものである。この時に、ごく簡単にふろしきや、扇子などに花嫁の名前を書き、手みやげとして配るのが普通であるが、紅白の薯蕷饅頭等を配る習慣になっている。品物には「寿」と表書きをし、紅白の結び切りの水引きをかける。夫の親類まわりでは、同行するのは、夫でも姑でもかまわないが、おみやげは新婦が結婚式の前の荷物送りの時にあらかじめ用意してきた物を持って行くのが普通である。先輩、上司への挨拶まわりは、披露宴に招待した人でも、新婚旅行から帰り、新居に落ち着いた後で、2人揃って挨拶に伺うのが礼儀である。おみやげは菓子折り程度でかまわないが、妻が持って行き、先方の婦人に渡す様にするのが礼儀である。京都の挨拶まわりは、何といっても「嫁入り饅頭」の慣わしがある事である。婚礼に際して両家は、親類・縁者から多数のお祝いを頂くが、そのお返しには、必ず薯蕷製の、「嫁入り饅頭」を余分に返した。薯蕷饅頭の「薯蕷」とは、つくね芋の事であり、昔は強精食品として高貴薬なみに取扱かわれていたものである。江戸中期頃から、人工的に栽培され一般にも普及したが、菓子に使用するには、まだまだ、貴重品的な存在であった。この薯蕷饅頭、味は言うに及ばず仕上がりは純白(当時純白に仕上がるものは他になかった)で、その品格、風格と共に、今なお菓子の王者として君臨している。花嫁が嫁ぎ先の家風に応じて、何色にでも染まる様にと、純白の、しかも特大の薯蕷饅頭をお祝い返しに使用する。紅白饅頭になったのは戦後で、菓子屋の商業政策によるものであろう。特大というのは、饅頭をお返しに貰った家が、別の人に花嫁の紹介を兼ね、お祝いのおすそ分けをする為のなのである。饅頭が大きければ大きい程、多くの人に知れ渡り、多くの人に祝福される事になるのです。婚礼は一生に一度の事ゆえ、花嫁の幸せを、饅頭に託し、高価な薯蕷饅頭を配ったのである。饅頭を貰う家でも、この祝いにあやかり、『手前の方にも良い縁がありましたらお願いします』などといって、饅頭の半分を又別の人にあげたものであり、このようなつき合いが各家の社会的信頼度を高めたともいえる。
<腰高薯蕷饅頭五ヶ入化粧箱>

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卍=押物製、
提燈=種合せ製。






五重塔=煉羊羹製、
柳・石塔・橋=生砂糖製。

[初里帰り](三日帰り)
 古くからのしきたりでは、挙式後数日のうちに新夫婦がそろって、妻の実家に行く事を里帰りと呼ぶが、現在ではしない事も多い様である。里帰りの時には夫の側から妻の実家の両親、家族、主な親類の人々にそれぞれ、おみやげを持たせる様にするが、それに用いられる品物としては、白生地、反物、洋服地、ハンドバッグ、子供にはおもちゃ、絵本、人形などがよいとされている。又、地方によっては里帰りの時、婚家から嫁に新しい着物を着せて、喜んで夫の家に迎えられたという事を実家の人に知らせる習慣もある。実家では、この日に迎える娘夫婦を「新客」と呼び、食事の用意をし、家族や主な親類の人を出来るだけ多く集めて、2人を歓迎する様にする。又、夫に墓参りをしてもらったり、実家で尊敬し交際している近所の長老の家へ挨拶に連れて行ったりする事もある。三日帰りは3つ目などといって婚礼の直後3日目位に一晩泊まりか、日帰りで嫁が実家を訪れる慣わしであるが、なければならない儀礼として現代人にも認められている割には、理由のはっきりしない行事である。他家に縁づいた娘が、その成婚を告げて親を喜ばせ安心させる点にも、婚家の嫁という新しい身分で実家に出入り始めをする点にも意義があると思われるが、それだけのものとも思われない。
写真は、京菓子協同組合青年部 結成20週年誌・穏歩前進より掲載。
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